「やりたいことで仕事を選ぼう」という風潮への違和感について

Youtuberという職業がすっかり世に定着してから、「やりたいことを仕事にしよう」と様々な場所で言われるようになった気がします。Youtubeもキャッチコピーとして「好きなことで、生きていく」と謳っており、「好きを仕事にするのが正である」という風潮は加速していると思っています。

一社会人の身として、また1年ほど前に兄と話す中で興味深い話を聞いたので、「やりたいことがない」人こそ、読んでみてほしいなと思います。

「やりたくないことを選択しない」という視点

突然ですが、私の兄は警察官です。

帰省したときに、「どうやってキャリアを選んだか」という話になり、私は以下のように答えました。

「これまで公教育・私教育に学校教師や塾講師、NPO職員として関わってきた中で、今度は教育政策を整備する中央省庁と仕事をしてみたかったから」

面接でも上記のように答えてきた中で、兄は突拍子もなく、「警察官でどんな人が辞めるか知ってる?」と聞いてきました。私は答えが出ず考え込んでいたところ、兄はこのように答えました。

「それは強い正義感を持って警察官になった人だよ」

勿論、兄は「警察官になる人が正義感を持っていない」と言いたかったわけではありません。警察官は本当に大変な仕事で、市民の安全を守りたいという思いがない人が、決して務まる仕事ではないと思っています。兄が言いたかったのは、「市民の安全を守るという良い側面だけを見て警察官になった人は耐えられずに辞めてしまう」ということです。

通報があれば、どんなことでも現場に急行しなければならない。ゴミ屋敷の掃除や交通事故現場の処理等、通常の人がやりたくないようなことも、市民の安心・安全を守るために、やらないといけない。

そんな「やらなければならない仕事」がどうしても耐えられない人は続けられないから、どんな強い正義感を持っている人も辞めていく。だから、「絶対にできない業務があるなら、その仕事は除外しないといけないんだよなぁ」と兄は話していました。

個人的には目から鱗が落ちる感覚でした。

警察官に限った話なのか

私は一般の事業会社に勤めていますが、似たような感覚を持ったことがあります。それは、一緒に仕事をしていた後輩が、データ集め等のリサーチにモチベーションが上がらないと漏らしていた時です。

一般的にコンサルティング業界にも幻想があると思っていて、「華やかなスーツを着てバシッとプレゼンする姿」を第一印象として持たれることも多いです。

勿論そのような機会も事実としてあるのですが、その晴れ舞台の裏には地道なリサーチや入念な資料準備があります。

「1%のやりたいことの裏に、99%の地味な工程がある」

のは、どの業界・職種にもいえることなのではないだろうかと思うのです。

広い視野で仕事内容を考えることの大切さ

「やりたいこと・好きなことを仕事にする」こと自体は、とっても素晴らしいことだと思っています。

ただ、自分がやりたい・好きだと思っていることを支えている作業や業務にまで目を向けて、そこまでひっくるめて、やってみたいのか・できるようになりたいのかを考えることが大切だと思うのです。

だからこそ、「自分が絶対にできない」 「絶対にやりたくない」ことを整理しておいて、目指している職業にそのような業務がないのかを考えることも大切だと思います。

私は血が大の苦手です。人を助けたいとは思いますが、今の私では外科医には一生かかってもなれません(勿論頭脳的にも)し、血を見ることを克服したいとも思いません。

まとめ

本稿が「やりたいことがなくて困っている」「自分は理想のないダメな人間なのだろうか」と思っている人にとって、新たな観点を得るきっかけとなれば、嬉しいなと思います。